パーキンソン病は30-40代に発症する若年性パーキンソン病を除いて、50歳代以上になってから発症する病気です。
歳がいくほど発症率が高くなります。最初は、一方の手足の震えや動きにくさで発症します。
なんとなく動作が鈍い、話しぶりが遅いなどの症状で気づかれることが多いのです。
原因は脳の下部にある、中脳の黒質という部分にある、メラニン含有細胞が消失し、神経の情報伝達をつかさどるドーパミンという物質が作られなくことにより、脳神経の情報伝達に支障がでるようになり、発症します。
30年くらい前は”10年位で寝たきりになり肺炎で死ぬ病気”といわれていました。
しかし、現在では様々の治療により”完全に治してしまうことはできないが、ほぼ天命を全うできる病気”と考えられるようになっています。
パーキンソン病の診断は特に早期では難しく、専門医でも経過をみないと難しいことが多いのです。
パーキンソン病の診断にはCTやMRIなどの画像検査だけでは診断することはできません。
これらの検査に異常がないのがパーキンソン病の特徴です。
専門医が手足や体の動き、硬さや歩行の状態、震えの有無、立位のバランスなどをみて総合的に判断します。最近では放射性同位元素を使用する核医学的検査が有用といわれています。
胃薬などの副作用による薬剤性パーキンソニズム、脳卒中による血管性パーキンソニズム、進行性核上麻痺、多系統委縮症、皮質基底核変性症など見かけ上、区別が難しい疾患もありますので、早期の診断が難しいのです。
パーキンソン病の治療は薬物治療とリハビリが2つの大きな柱です。
パーキンソン病患者の脳にドーパミンという神経伝達物質が減っていることからドーパミンを薬として投与すると治療に役立つのではないかと当初は考えられました。
しかし、ドーパミンは血液脳関門という血液と脳の間のバリアにより、そのままの形では脳には入らないことが分かってきました。そこでL-ドパという誘導体にしてみるとこれは脳に入り、パーキンソン病患者には劇的な効果があることが証明されました。
”レナードの朝”という映画に、このことがよく描かれています。
L-ドパによりパーキンソン病の治療はすべて解決されたかのように一時は思われました。(当院ではイーシドパール、メネシットというL-ドパ製剤を使用しています。)
ししかし、10数年もの間、L-ドパを大量に服用すると、幻覚、せん妄などの精神症状、ジスキネジアと呼ばれる不随意運動、ウェアリングオフ、オンオフ現象と呼ばれる薬の効果が長時間続かなくなるなどの問題が生じてくることが分かってきました。
L-ドパの長期連用の問題を克服するために、最近ではL-ドパを早期から増やさずに、ドーパミンアゴニストと呼ばれるドーパミンの受容体を刺激する薬(パーロデル、ペルマックス、カバサール、ビシフロール、レキップなどの薬があります。)L-ドパの分解を遅らせる薬(エフピー、アジレクと、エクフィナ、コムタンなど)を併用し、それぞれの薬の副作用や特徴を上手に使いこなすと、長期間に渡ってL-ドパの副作用を抑えて、いいコントロールができることが分かってきました。
これらの薬の使い方は日本神経学会のガイドラインにも示されていますので、神経学会の認定専門医(学会のホームページから調べることができます。)にかかられれば、どこでも標準的な治療を受けることができます。
あとは、体が硬くならないように毎日リハビリを続けることも重要です。
投薬を最大限に増量し、リハビリを懸命におこなっても、充分に動けなくなることもあります。
そのような時には脳の視床下核というところに電極を埋め込み、ペースメーカーのように電気刺激することにより、体を動けるようにする治療もあります。最近は超音波で脳の一部を破壊して動きをよくする治療屋胃ろうからポンプを使ってL-ドパを注入する治療も始まっています。
現時点ではパーキンソン病の進行を止める薬はないのですが、活性酸素を抑えて進行を遅らせる薬など、パーキンソン病に対しては新薬の開発が盛んにおこなわれています。
京都大学の山中教授の新たな幹細胞の開発などで知られる再生医学もパーキンソン病の治療に応用されるようになっています。
これらの治療に過度の期待をもつのは問題ですが、パーキンソン病に対しては日進月歩で研究治療が進んでいると考えてもよいと思います。
脳卒中は脳梗塞や脳出血とはどう違うのでしょうか?
脳卒中とは脳血管障害とほぼ同じ意味で使われます。
脳の血管が破れたり、詰まったりしておこる病気を総称してこう呼びます。
ですから、脳卒中のなかに脳出血や、脳梗塞、くも膜下出血などが含まれるのです。
症状が突然起こるのが特徴です。
突然、意識を失って倒れる、ろれつがまわりにくくなる、ふらつく、頭痛、手足が動きにくくなる、ものが二重に見えるなどの症状が突然起こります。
脳梗塞は脳の血管が詰まってしまう病気の総称です。
脳血栓はコレステロールなどの動脈硬化により、血管が次第に細くなり、最後に詰まってしまう病気です。
そのほかに、心房細動などの不整脈などにより心臓の中に血の塊ができやすくなり、それが心臓に飛んで行って詰まる、心原性脳塞栓、高血圧などのため、脳の細い血管が詰まってしまうラクナ梗塞などがあります。
つまり、脳梗塞のなかに脳血栓、心原性脳塞栓、ラクナ梗塞などの病気が含まれると考えるといいと思います。
心原性脳塞栓症とは少し馴染みのない病名ですが、以前から脳塞栓と呼ばれていた病態とほぼ同じです。
アメリカの国立保健機構が脳梗塞の病型の一つとしてこう名付けたのをそのまま日本名にしたものです。ちなみに日本の厚生省の分類では脳塞栓となっています。
心房細動などの不正脈、心筋梗塞のために心筋の一部の動きが遅い、心臓の中に粘液種という腫瘍があるなどのため、心臓の中の血流が悪くなり、血液が固まりやすくなると血栓と呼ばれる血液の塊が心臓の中にできます。これが、ほかの血液といっしょに心臓から大動脈にはきだされ、脳に流れて行って血管に詰まり、発症します。
突然血管が詰まるので、症状が突然おこり、脳の腫れを伴い、重症化することが多い脳梗塞です。梗塞が起こったところに出血性脳梗塞という出血を合併することもあります。
長嶋監督、オシム監督、小渕首相などがこの脳塞栓のために倒れておられます。いずれも心房細動が原因と思われます。
現在では塞栓を予防する方法が分かっています。
ワーファリンや最近使われるようになったDOAC(直接経口抗凝固薬)という薬をのむと心房細動の患者さんが脳塞栓になる確率が6割以上すくなることが証明されています。
残念ながら脳卒中は誰もがなる可能性のある疾患です。
特に、心房細動などの心疾患、糖尿病、高血圧、高脂血症、肥満などの治療がうまくいっていない方は要注意です。喫煙者、アルコールの多飲、ストレスの多い方、運動不足の方もハイリスクと考えないといけません。
脳卒中にならない方法はありませんが、脳卒中になりにくくする方法はいろいろとあります。
血管エコーなどで血管の動脈硬化を評価したり、リスクとなる疾患の管理を徹底すること、血圧や糖尿病、高脂血症の薬でも脳梗塞を起こしにくくする薬が開発されています。それらの薬を必要に応じて使用することにより、単なる生活習慣病の治療をするより、より、脳卒中になる確率を下げることができると考えています。
心房細動などの心疾患の方はワーファリンやDOACという薬を必要に応じて使用することにより脳梗塞になる確率が3分の1以下に減ることが分かっています。脳出血には高血圧の治療が最も重要です。
HbA1cは”ヘモグロビンエーワンシー”と呼びます。
血液中のヘモグロビン(赤血球に含まれる血色素)が、ブドウ糖と結合している割合で、赤血球の寿命と同じく過去1-2か月の血糖値の平均を示します。そのために糖尿病の診断、治療効果の判定に使われています。
血糖と違い食事の影響を受けずに過去1-2か月の血糖コントロールの状態が分かるので大変便利な検査なのです。一般にHbA1cが7.0を超えていると3大合併症(腎障害、神経障害、網膜症)の進行を予防できないといわれています。
当院では皆様にHbA1c 6.5を目標に、それが達成できた方には5.8を目標に血糖のコントールを考えていただくようにお話ししています。
皆さん、LDLコレステロールという名前を知っていますか?
コレステロールの中でも動脈硬化に直結するコレステロールなので一般に”悪玉コレステロール”と呼ばれています。
以前はコレステロール全体を測り”総コレステロール”と呼ばれていたものが一般に利用されていたのですがこれには血管を掃除するコレステロール(HDLコレステロール=善玉コレステロール)などが含まれているのでこの高低だけではいいのか悪いのか判断できなかったのです。
LDLコレステロールがの値が140mg/dlをこえると心筋梗塞や狭心症などの冠動脈疾患、脳梗塞などの脳血管疾患などの発症頻度、また死亡率があがっていくことが分かっているので、LDLを140mf/dl以下に低下させることが治療の目標となり、治療の指標として非常に役立ちます。
皆様も検診などの結果でLDLが140を超えていないか注意してください。
しかし、冠動脈疾患の方は100mg/dl以下、糖尿病、脳梗塞をされた方は120mg/dl以下にLDLを下げないといけないので、140mg/dlでは不十分なので注意が必要です。最近ではさらに下げるほうがより脳卒中になりにくいことが分かってきています。
あなたの糖尿病コントロールはうまくいっていますか?
うまくいっているとはHbA1cが6.5以下に保たれていることをいいます。
これより高値であれば腎障害、網膜症、神経障害の3大合併症が進行するといわれています。さらに、脳梗塞、心筋梗塞などの血管障害を防止するにはHbA1c5.8を維持することが必要といわれています。
最近、最近はより低血糖を起こさずに血糖を下げることのでき、脳梗塞や心筋梗塞になりにくくする薬やインシュリンなどの注射薬使いやすくなり、より簡単に治療を受けていただけるようになっています。
当院では”片側顔面けいれん”と”眼瞼けいれん”に対してボツリヌス治療を行っています。
”顔面けいれん”とは脳幹というところから出る顔面神経が、近くを走る血管により圧迫され、顔面の半分が痙攣してひどい場合は眼をつぶってしまったり、口元がひきつったりする病気です。
悪性の病気ではないので命には影響しません。
薬を試すこともたまにありますが、あまり効果は期待できません。
根治療法は頭がい骨を開けて脳幹付近の顔面神経と血管をひきはなす手術をします。有効性は95%くらいといわれています。
しかし、いくらかは手術による侵襲はあります。
手術は希望されないが痙攣をなんとかしたい方にボツリヌス治療がお勧めです。
”眼瞼けいれん”は現在でも原因不明で、眼の周囲の筋肉が両側性に 閉じてしまう疾患です。
こちらは薬が少し効く場合がありますが、ボツリヌスの方がより有効です。
ボツリヌス治療はボツリヌス菌という神経毒をつくる細菌を培養し、人工的に取り出した神経毒を痙攣する筋肉に皮下注射してけいれんを治療します。
インシュリンの針くらいの細い針で10か所程度、痙攣している目や口元の筋肉に皮下注射をします。時間は10分程度で済みます。
薬の効果が3か月くらいしか持続しないので、3-4ヶ月毎に治療を繰り返します。
副作用としては薬が効きすぎて瞼が上がらない、閉じない、口元がマヒするなどのことがまれに起こりますが、薬の効果がなくなれば元に戻ります。
治療には同意書へのサインが必要であり、薬が注文制のため、初診時には治療はできません。
書痙、斜頸、下肢の痙縮の治療は当院では行っておりませんのでご了承ください。